今回の月報の連載では、DH Awards 2020について取り上げたが、紙幅のつごうもあり、すべての候補作を取り上げることができなかった。以下では、そののこりを取り上げて補遺としたい。
dhawards.org
Best Use of DH for Public Engagement(一般参加)部門では、30件の応募があった。
- Inicio | Antología litElat #1は、ラテン・カリブアメリカにかかわるe文学の集成を目指したもの。
- An AR Story Map of Japanese Comfort Stations in Nanjing during World War II (利济巷)は、南京大ARマッピングプロジェクトによる南京の慰安所に関する地図やアプリなどとのことであるが、稿者の環境では期待したようには動かなかった。
- Garden of … Knowledge for Humanity – In Kepler's Gardensは、メディアアートにかかわる祭典や賞を運営するArs Electoronicaが人文学と社会を結ぶ交点を提供すべく開催しているトークシリーズ。時事的な話題も見受けられる。
- ArtyHum Revista Digital de Artes y Humanidadesは、芸術と文学にかかわる西文電子雑誌。
- Bans, Raids, Walls, Sanctuaryは、現代米国社会にかんする書籍のサポートサイト。補足として年表などが提供される。
- Blood Libel: On The Trail of an Antisemitic Mythもやはり書籍のサポートサイトで、中世ヨーロッパにおけるユダヤ人差別を論ずる。インフォグラフィックスなどが提供される。
- Cork LGBT Archive Interactive Tour Mapは、市民参加の記録。アイルランドのコーク市におけるLGBTコミュニティの活動の歴史を記録するものとなっている。
- What was a ‘machine’? Crowdsourcing ‘Living with Machines’は、19世紀イギリスの機械に関する新聞記事のクラウドソーシングによる電子化プロジェクトで、目的を完遂したようである。
- DHARTIは、インドでの大学内外でのDH教育のための組織。
- Digital Holocaust Memoryは、市民間のホロコーストの記憶継承にむけた取組み。ゲームやDiscordサーバがあるのが印象的。
- Diskursmonitorは、言論のモニタリングツールで、用語集や総説、言説の信頼性についての自動計測器?などがある。
- Feral Atlasは、書籍のコンパニオンサイトであるが、単独でもじゅうぶんに楽しめる。「人新世」ともいわれる、人類のもたらした世界への影響についてのアート作品である。
- Hands on Readingは、ログインを要求されて中身を確認できなかった。
- Home - per sezioni - I conti con la Storiaは、テレビと人種の歴史ということであろうか、歴史的映像が多い。
- Investigating Indentured Servitude: Visualizing Experiences of Colonial Americaは、アメリカ合衆国独立前の年期奉公人についての記録のテーマ的可視化。
- Just How White Is the Book Industry?は、アメリカ合衆国の書籍市場における白人支配についての論説。
- Life Stories Virtual Exihibitonは、ビクトリア大学のコレクションのなかから、人生のステージやそれにかんする儀礼についての視覚的・物質的文化を取り上げたバーチャル展覧会である。
- Locating Queer Memoriesは、バルセロナにおけるLGBTQの経験を地図化したもの。国際的な同時代関係や時代背景についても簡単に説明されている。
- Mapping Memories of Africvilleは、カナダの黒人に対する暴力の地として記憶される、Africvilleにかんする記憶の永続化のこころみ。
- Modeling Mesoamericaは、メソアメリカ地域の考古学遺物のレプリカモデルをそのものとして受け止めるバーチャル展示。
- NY 1920s: When We Became Modernは、(ニューヨーカーが)100年前のじぶんたちを見つめることでニューヨークの近代を考えようというもの。
- Raising the Volume!: Amplifying Soul of Reasonは、1970年代のラジオ番組のデータセットで、文字起こしソン(transcribe-a-thon)を行ったり、ウィキデータのエディタソンを行ったりするコミュニティ参加型イベントのみならず、学生に奨学金を出してデータの分析を促したりなどしたもの。
- Smarthistoryは、カーンアカデミーの美術史情報サイトで、世界一の集客数を誇る公共美術史サイトであるということである。カーンアカデミーは、無料のオンライン学習サイト。
- Startwordsは、ブログよりもうすこし形式的であるが、雑誌よりは実験的な場で、「実験人文学」のための場であるという。
- Storia dei Carabinieriは、イタリア・カラビニエリの歴史についてのポッドキャストシリーズ。
- The Papers of Martin Van Burenは、アメリカ合衆国第8代大統領ヴァン・ビューレン文書の翻刻プロジェクト。とくに一般参加は募っていないように見受けられる。
- THE RESEMBLAGE PROJECTは、resembrance、assemblage、ageの鞄語であるresemblageの語によって、スカーバロー地区を舞台に、老化についての語りを交錯させるこころみであるという。
- TIDE Salonは、発見の時代(日本では大航海時代と呼ばれる)の歴史を象る重要な用語をアーティストに提示して、協同で作品を作るこころみであるという。
- Tribesourcingfilm.comは、部族の協力を得て(=tribesourcing?)、偏見を隠さずに制作された過去のアメリカ・インディアンの映画を重層的なナラティブのもとに歴史的なものとして位置づけようとしたこころみ。
- Wabash Medievalistsは、ウォバシュ大学の中世学者たちのクラスの長年にわたる記録をするもののようである。
Best DH Response to COVID-19(COVID-19への応答)部門では、19件の応募があった。ぱっと見ただけでは特徴が分りにくい。稿者の印象にもとづいて、グループ分けをしたので、それで紹介に代える。グループの順序は順不同である。グループ内の順序は、DH Awardsでの紹介順とする。
- アーカイビング系:Coronarchiv、Corona Archive @ Kansai University – コロナアーカイブ@関西大学、Pandemic Religion: A Digital Archive、Social Distancing in a world of Memes、Sounds of COVID、Visionary Futures Collective
- イベント系:DARIAH Virtual Exchange Event、Digital Art History Summer School 2020、Twitter Conference “DH in the Time of Virus”
- 議論・調査(論説・フォーラム)系:DHAll Discord Server、Digital Pedagogy in the Humanities、Museums in time of COVID-19、Point of Equilibrity、The Epidemic Flow: Cases and Places、Trans Media, Digital Humanities, and World Literature Project of NRF-GRN、Vaxxers、WARCnet Papers
- ガイド系:Important Public Health Messages from the Data-Sitters Club about COVID-19、Storyhaven