kzhr's diary

ad ponendum

文字は簡単が便利か

id:kahusi:20041014で言及の對象にされたが、世界の文字の圖典(ISBN:4642085157)について、少々氣になることがある。それは、表音文字(そしてその窮みたるローマ字アルファベット)を最良としてゐることである。ローマ字がこのように広く使用され、かつ理解されるのは、なんといっても簡易な少ない字数で言葉を現すことができる利便さのためである。また、この本ではヒエログリフから派生したコプト文字について、プトレマイオス朝の治下に、エジプトは著しくギリシア化し、また多くのギリシア人が移住したため、古来の煩雑なエジプト文字は次第に廃されてギリシア文字が用いられるようになったといふ。表意文字は複雜で使ひづらいだけであるといひたいのであらう。そして、ギリシア化したエジプト人も複雜だから捨てたのだといふ。


しかし、かうは考へられぬだらうか。すなはち、エジプト文字は彼らの文字でなくなつてゐるといふことである。表意文字といふのは、他の言語に移し變へるのが容易でない(その點ローマ字アルファベットは擴張性に優れてゐる)。まして、その一文字一文字に、他の言語の意味合ひをこめることなど、至難の業である(特に日本語をほめてゐるのではない)。多く、自分の言語を表すのに、表意文字を表音的に使ふことで代用してしまふであらう。エジプト人は自らの言語を使つてゐるうちはヒエログリフを捨てなかつただらう。しかし、ギリシア化された彼らはエジプト語をもはや保つ力は無かつたのではなからうか。さうすれば、わざわざ自分の言葉を表せないヒエログリフを使ふ理由がなくなるだらう。かう考へていくと、表意文字は裕福な人々の文字だと氣づかされる。丁度、われわれが單一のものを食べずに、料理をすることでバリエーションを持たすことは、われわれが裕福であるために可能であるやうなものである。表意文字でなれてしまへば、わざわざ表音文字にするのはかへつて文化の質を下げる(日本を見るがよい)。しかし、それを存續させしむることは容易でない。文字の性質だけでは、言語での文字選擇は語れないのだ。…なんでまとめに入つてしまつたのだらう。