kzhr's diary

ad ponendum

大地の作らるること

 天地がはじめて發つたとき、風だけがあつた。光の一筋も射さない中をごおおと音をたてて吹きまくつてゐた。やがて言葉が生まれた。ほとつちとかぜとみとかねとを意味する言葉であつた。言葉は音を伴ひ風の中を響いた。言葉は風にもまれもまれるうちに散り、塵となり風を漂ひ集うて藭となしたまうた。すなはち黒髮の君、白髮の君、赤髮の君である。
 さてこの神々ははじめは定まらず風に吹かれれば體の形を崩してゐたがやがて定まつた形をあらはしたまひ、つひに三柱の神は合ひ目見えあそばした。揃ひも揃つて立派にあらせられる神々である。我が力を誇つて、ほかの二神をば從へやうとしたまうたのだが、いづれも賢くあそばすのである、公正な競技もてその上を定めることとなつた。
 まづその御力を誇るには、何が最もよいか御考へになつた。白髮の君はつちとみの言葉が御身にあらせられたから、力比べを御望みになり、黒髮の君はかぜとみの言葉が御身にあらせられたから、知恵比べを御望みになり、赤髮の君はかねとほの言葉が御身にあらせられたから、技比べを御望みになつた。神々はすべてあそばすこととしたまうた。